2011年2月20日日曜日

“平和”

“平和”の語源は漢語の“和平”からの造語、明治維新以降、外交政策の中で“Peace Ttreaty”(平和条約と訳された)等、“PEACE”の訳語として用いられるようになったものだ。

しかしpeaceは、ラテン語paxを語源に持つpacifyと同じ類に属する言語。pacifyが、平定、あるいは平和にする、と訳されるように、かなり強い意志に基づく能動的な言葉であるといえる。

強者が弱者を抑えての平定、封建社会から脱し、明治維新という「部落解放」政府を正当化する過程において、見せかけの民主主義による国家統治を実現するにあたり、統治する側から見て、“平定”という語感がこの国の農耕民族的風土に馴染まなかったから漢語の“和平”が倒置されて“平和”という言葉が生まれた。

さしずめ、Pax Romana (パークス・ローマーナ)といえばローマ帝国によって維持された平定状態であり、ここから応用されて、イギリス帝国の最盛期である19世紀半ばごろから20世紀初頭までの期間をPax Britannica、戦後から現在に至るPax Americana(パークス・アメリカーナ)とは、派遣国家アメリカ合衆国の「力」が形成する「PEACE」である。

「PEACE」は中華帝国を中心に外交秩序を形成し、戦争のない状態へと「和平」することを指す中華思想の根幹である“柵封体制”は近い。だからこそ、派遣国家同士、アメリカと中国は対立や摩擦も起きやすい。



よってこれら「PEACE」の反対語は、基本的な解釈で言えば「WAR」(戦争)であった。戦争状態が平時なのか、或いは平和状態が平時なのかは議論があるだろうが、少なくとも、我々日本人の語感においても、「戦争」がなくても平和ではない場合はいくらでも想定できるだろう。

貧困、飢餓、差別等々・・インド人はpeaceの反対はpeacelessだと唱えた。そして、それを正すための戦いも平和のため、だと考えるのが、平和=サラーム(神のもとに正義、公平がなされること)であるアラビアの人たち。



和を以て平らに、その語感は日本の良さのようにモラルとして創作され、“PEACE”を翻訳した“平和”は統治的論理に基づく政治的用語であったことから見るに、“平和”が、それを”善”と刷り込まれている非統治側の国民、農耕的民族である日本人はこうして羊牧化されてきた。

そうして現代のこの国に、“平和”という羊牧的言語と、その音や刷り込みによて、“和”が善、“戦”は悪という風土が染み込んだ。生きるものが持つべき本能的な能力であった、「勝てない喧嘩、勝てる喧嘩を瞬時に判断する能力」を奪ってしまった、あるいは退化させたとも言えよう。

だが、一方で、ここまでの私の説明に違和感を感じる人は多いかもしれない。

そう、その通り、かつてそう造語された“平和”は多文化の交流や、英語圏以外の文化も含め翻訳されて輸入され、それらがクロスオーバーした中で、日本には日本人の個々が思う“平和”が出来上がった。この“平和”という言葉は、思想の自由に基づく、個々の思索の中で自由な解釈が加えられ、故に、思想的言語であるからこそ、“平和”の解釈は、“あなたの中にある”解釈そのもので、それが「答え」でもあり、そのすべてが間違いではない。



さて、それでは改めて問う。ボクらの「平和」の定義はどのへんなのか、あるいはどのような範囲の広さを持つのか。



実は、その答えすら重要ではない。

こうして、当たり前に使っているようで、実は定義付けが合わない、個人の思想や思索に基づく言語は数々ある。「愛」「自由」「正義」「悪」「健康」等々。

同じ言語を話している「ように見える」同じ日本人同士でも、これらの言葉は、決して同じではない。さらにそれが翻訳されて使われる段階でなお一層誤解を生む。が、誤解があると知らずにコミュニケーションをしている、それで「寛容」「多様性」という言葉で覆うことは、目くらましに等しい。

そもそもコミュニケーションとは、相互理解であり、相互の差異をなるべく多く感じる努力なしには成立しない。また同様に、「平和」も個々の思索に基づく概念である以上、相互差異と理解を深め、互いに選択する「平和」の在り方を尊重しようとする前向きな「力」なくしては成立しない。

麻雀用語で使われる平和(ピンフ)は、府が無いこと、つまり平和は何もない状態を指す。何もない状態とは、人が誰もいないに等しく、だが、それが不可能であるなら、お互い何もしないという選択をするとする。だが、「お互い何もしない」ことは「無関心」ということであり、マザーテレサが言ったとされる言葉を借りれば、それは「愛情の正反対」のことをしている、ということになる。

「愛」が無い「平和」を求めるのか、「愛」がある「平和」を求めるのか。私の答えは、後者です。

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